2016年秋。 MORISに突然迷い込んできた 「かもめ」の物語。 ![]() MORISでは毎年11月芸術の秋にちなんで 「映画fes!」と称して、週替わりで映画を選び その映画に出てくる料理をアレンジしてご提供する というイベント的な通常営業をしています。 2016年11月8日火曜日。 その日は映画「かもめ食堂」の週の初日でした。 ディナーの仕込みを終え そろそろオープン準備を始めようかという頃 どこからか「ミャー」という声が聞こえた気がしました。 流れていたラジオに埋もれた、小さな声。 「いま猫の声しなかった?」 ラジオの音楽か、はたまた聞き間違いか。 一応ラジオの音量を下げ 二人で暫く耳を澄ませていると もう一度と確かに何かが鳴くような声が聞こえたのです。 「いや待って、ネズミかも。『チュー』に聞こえなくもなかったね・・・」 実は当時、当ビル前にあった和菓子工場の解体工事の余波か 一時、ネズミが天井裏を走っていた過去があったのです。(すでに駆除は完了していました) それに、「まさか猫がいるわけがない」という意識もあったと思います。 さらにしばらく黙って耳を澄ませていると 洗面所の方でガサゴソと物音が聞こえました。 「やっぱり何かいる!・・・しかも天井裏じゃなくて、室内に!」 もう少しで夜の営業も始まるため 早急に処理しなくては、という思いで洗面所にいき 近くにあった空のゴミ箱を片手で持ち構え 洗面所下のカーテンを「えいっ!」と開くと・・・ 備品が積まれたビニール袋のなかに すっぽり身体を埋もれさせて 手のひらに乗りそうな子猫がこちらをじっと見ていたのです。 「猫だ!」 と叫び、「なんで!?」と言いつつも 二人の顔はすっかり笑ってしまっていました。 しかしとても怯えていて 近寄ると「シャー!」と威嚇しては逃げ回り 人の手が届かない奥へ奥へと隠れてしまって 仕方がないのでこの日の夜営業は そわそわしながらもそのまま営業することにしました。 やってきた常連さんも一緒になって驚き とりあえず名前を付けようということになり その日のテーマ映画であったかもめ食堂になぞらえ 「かもめ」と呼ぶことにしました。 「明日のランチまでには捕獲してどうにかしないと。」 営業終了後、その日は一晩店に泊まることにしました。 餌で釣ったり、あれこれ試行錯誤するも 夜中3時を過ぎてもなかなか表に出てきてくれません。 半ば諦めて、その時読んでいた 村上春樹の著書「ノルウェーの森」の続きを読んで待つことにしました。 この本を読むのは初めてで、その時はちょうど下巻の後半からでした。 読み始めてまもなく 主人公は離れのある家に引っ越しました。 庭先に野良猫が数匹いるような屋敷でした。 縁側に座っていると そのなかから一匹だけ人懐こく近寄ってくる猫がいたので 主人公は その猫に なんと 「かもめ」と名付けたのです!!! 猫の名前としては珍しいと思われるのに 読みかけの場所が早くてもその場面に辿りつかなかったでしょうし 遅かったらその名前を付ける時に私が思い出していたでしょう。 うすら怖さを感じつつも わたしたちはすでに 運命的な衝撃を受けていました。 翌朝なんとか無事に捕獲でき ランチが終わってから近所のペット病院に連れて行き、先生から 「ノミはしっかりいるのでおそらく野良猫ですが、 汚れもさほどなく、病気も傷もありません。 推定生後2、3ヶ月でしょう。 これも縁ですから是非飼ってあげてください」 と言われました。 二人とも猫の飼育経験はありませんでしたが 元々「MORIS」というのは とある近所にいた野良猫に誰かがつけた名前(からとった店名)でしたし すでに十分過ぎるほどの縁を感じていたため 住み込み食事付きで「かもめ」を雇うことにしたのでした。 重いガラスドアの玄関。 猫が通れるような通気口もなく、階段を降りる地下の店。 当時、低い椅子からも降りられないような臆病な性格。 未だにどのようにしてやってきたのか解っていませんが かもめは私たちの大切な家族(従業員)になりました。 仕事内容:看板猫、接客(ディナータイムのみ)、可愛がられる ![]() (現在のかもめ) ![]()
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